【キャリア理論】ジェラットの意思決定論アプローチをサクッと解説

ジェラッドの理論を徹底解説

合理的モデルから「積極的不確実性」へ

キャリアカウンセリングの世界、特に国家資格キャリアコンサルタント試験の学習において、ハリー・ジェラット（Harry B. Gelatt）の理論は避けて通れない重要なテーマです。本記事では、ジェラットの理論について、試験対策に直結するポイントを網羅的に解説します。彼の理論は初期と後期で大きく内容が変化し、この「変化」こそが理論の核心であり、試験でも頻繁に問われる部分です。

第1部：ジェラットという人物

まず、ジェラットがどのような人物であったかを紹介します。

• 米国の著名なカウンセリング心理学者であり、特に意思決定の分野で大きな功績を残しました。
• 彼のキャリア理論は、「意思決定アプローチ」に分類されます。
• 非常に柔軟な思考の持ち主で、時代の変化に合わせて自らの理論を大胆に転換させたことで知られています。この姿勢そのものが、現代のキャリアコンサルタントにとって大きな学びとなります。

第2部：初期の理論「連続的意思決定プロセス」（1962年）

ジェラットが最初に提唱したのは、非常に論理的・合理的な意思決定モデルです。これは、コンピュータが台頭し始めた時代背景を色濃く反映しています。

理論の核心：3つの主要システム

彼は、合理的な意思決定は3つのシステムの相互作用から成り立つと考えました。

1. 予測システム（Predictive System）
   • 役割: 可能な選択肢と、それぞれの選択肢がもたらすであろう結果、そしてその結果が起こる確率を予測するシステムです。
   • キーワード: 選択肢、結果、確率
   • 例: 「A社に入社すれば、80%の確率で希望の部署に配属されるだろう」「資格取得の勉強をすれば、1年後の合格率は60%だろう」といった予測。
2. 価値システム（Value System）
   • 役割: 予測された様々な結果に対して、個人がどの程度それを望ましい（好ましい）と感じるかを評価するシステムです。個人の価値観が反映されます。
   • キーワード: 好ましさ、望ましさ、価値観
   • 例: 「希望の部署に配属されることは、私にとって非常に価値が高い」「給与の高さよりも、プライベートの時間を確保できることの方が望ましい」といった判断。
3. 決定基準（Decision Criteria）
   • 役割: 予測システムと価値システムから得られた情報（「確率」と「価値」）を統合し、目的を達成するために最適な選択肢を評価し、選択するための基準です。
   • キーワード: 評価、選択、基準
   • 例: 「最も成功の確率が高い選択肢を選ぶ」「多少リスクがあっても、最も価値の高い結果が得られる選択肢を選ぶ」といった、個人なりのルールや基準。

試験対策ポイント（初期理論）

• 「合理的」「論理的」「客観的」といったキーワードと結びつけて理解することが重要です。
• 「予測」「価値」「決定基準」の3つのシステムがそれぞれ何を担うのか、具体例とともに説明できるように整理しておきましょう。
• この理論は、情報が十分にあり、未来がある程度予測可能であるという前提に立っている点を理解しておくことが重要です。

第3部：後期の理論「積極的不確実性」（1989年）

1962年から約27年の時を経て、ジェラットは自らの理論を180度転換させます。その背景には社会の変化がありました。

理論転換の背景

• 社会の変化: 情報化社会が到来し、情報が爆発的に増加。未来の予測が極めて困難な「不確実な時代」になりました。
• 合理的アプローチの限界: 論理や合理性だけでは、複雑で変化の激しい現代社会の意思決定に対応できないという認識が生まれました。

そこでジェラットが提唱したのが「積極的不確実性（Positive Uncertainty）」という、非常に画期的な概念です。

「積極的不確実性」とは？

これは、「未来は不確実である。だからこそ、その不確実性を前向きに受け入れ、柔軟に対応していくべきだ」という考え方です。論理や合理性といった左脳的なアプローチだけでなく、直観やひらめきといった右脳的なアプローチも統合し、バランスの取れた「賢明な意思決定（Wise Decision）」を目指します。

賢明な意思決定のためのフレームワーク

ジェラットは、賢明な意思決定を行うための考え方として、以下のフレームワークを提唱しました。これは試験の最重要ポイントです。

【2つの真実（Two Truths）】

1. 目標は明確に、しかし柔軟に（Be focused and flexible about what you want.）
   目標を持つことは大切だが、それに固執しすぎず、状況に応じて柔軟に見直すことが重要である。
2. 情報は多く集める、しかし幻想は捨てる（Be aware and wary about what you know.）
   情報は意思決定の助けになるが、情報が完全であるとか、客観的な事実が全てだという幻想は捨てるべきである。

【3つの原則（Three Principles）】

1. 自分が何を求めているかを知る、しかしそれを絶対視しない（Know what you want, but don’t be sure.）
   自分の欲求や価値観を理解することは出発点だが、それが絶対的なものではないと心得る。
2. 自分自身と状況を理解する、しかしそれは変化することを忘れない（Know what is, but don’t be sure.）
   自己分析や環境分析は重要だが、自分も状況も常に変化し続けることを忘れてはならない。
3. 選択と行動の論理を最大限に活用する、しかし逆説と矛盾を受け入れる（Use your head, but don’t forget your heart.）
   合理的な思考（頭）は最大限活用するべきだが、時には非合理的な感情や直観（心）も受け入れ、両者のバランスをとることが大切である。

試験対策ポイント（後期理論）

• 理論転換の背景として「不確実な時代への対応」という点をしっかり押さえましょう。
• 「積極的不確実性」というキーワードは必須の暗記事項です。
• 「合理的＋直観的」「客観＋主観」「左脳＋右脳」といった対比で理解すると記憶に定着しやすくなります。
• 「2つの真実」と「3つの原則」は、内容を正確に記憶し、それぞれが何を意味しているのかを説明できるようにしておくことが求められます。

第4部：まとめ – 試験に向けた総整理

最後に、ジェラットの理論の変遷を表にまとめます。学習の際の参考にしてください。

ジェラットの理論は、現代のVUCA時代（変動性、不確実性、複雑性、曖昧性）におけるキャリア支援のあり方を考える上で、非常に重要な示唆を与えます。クライエントが予期せぬ出来事や不確実な未来に対し、不安を抱くのではなく、それを前向きな機会として捉え、柔軟な意思決定ができるよう支援することの重要性を示唆していると言えるでしょう。